1. 2012
    03
    29

    嫌われる業界が生き残る方法

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    自虐的な表現が何度も飛び出したセッション。Caesars Entertainment(以下、CE)は創業70余年のカジノ運営会社だ。威風堂々と語ってくれたのは政府との渉外担当Jan Jonesさん。姿勢が良くて太い声、歯に衣着せぬ物言いに並ではない迫力がある。ラスベガスの元市長というユニークなキャリアの持ち主(FourSquareのMayorじゃないっすよ、念のため)。

    ※このブログエントリは3月初旬にニューヨークで行われた"Reputation Preservation & Crisis Communication USA 2012"に出席した時のレポートです。

    今のところ、日本にカジノは存在しないが比較的立場の近い業界にはパチンコがある。また、昨今何かと社会の問題視されがちなソーシャルゲーム業界にも近いと感じた。今回のイベントのタイトルにも含まれる"Reputation"をどのように日本語訳したらいいのか迷っている。辞書には「評判」や「良い評判」と訳されるが、もう少し切実で強い意味の言葉に置換えたいところ。英語が得意な人は是非適訳を提案してもらいたい。

    ここではReputationとそのまま表記することとする。JanさんはReputationが大切だと何度も繰り返した。ライセンス制のこの業界、下手なことをしたら営業停止だ。さらに驚いたのは、課税額も柔軟に変更されるとのこと。要するに、社会的な存在意義を継続的に発信し続けないと企業の存続そのものが危ぶまれるのだ。しかも利益ではなく売上げに対しての課税。更に今年NASDAQに上場したこともあり、カジノでありながら(?)透明性の高い健全な経営をしなければならない。

    そこで何度も繰り返されたせりふが「厳しく規制された産業は"Reputation"の管理が最も大切なのだ」だ。Reputationを何度も何度も繰り返して社会に訴え続ける必要があるのだと強調した。今回のイベントのテーマでもあるから当然かもしれないのだが、アメリカではReputation Managementは企業の存続、継続的な利益を生み出すのには必要不可欠だ、という共通認識が強く存在することが理解できた。

    CEが今までに直面した危機は、従業員との労働交渉、カジノを運営する地元住民とのトラブル、果ては銃の撃ち合いまでと、さすがカジノといった堂々たるトラブルが並ぶ。カジノ業界ならではの興味深い事例が紹介されたのだが、特に印象に残った話はこれだ。

    これまで何度も様々な危機を乗り越えてきたCE。しかし、その度に会社は強くなりReputationが向上、改善した。CEOへの経過報告は複数の部署ではなくJanさんに集約された情報をJanさん一人が報告することでどのステークホルダーに対しても、CEとしての一貫した回答を提示できるようにした。それらの環境整備が行われているという前提での話だが、こんなことがあったそうだ。

    ひとつは、カジノの建物に手抜き工事があったことが内部告発で表沙汰になった時のことだ。240日間にも渡ってメディアでネガティブに取り上げられた。ちょっとしたことでも叩かれやすい業界なので、やはり大きな問題にはなったようだ。

    この時に、JanさんがしたことはCEOの説得だった。恐らくあまり表に出たがらないCEOのケツを叩き、積極的にメディアに接触するようにしたそうだ。そして、可能な限り透明性を高めて隠し立てすることなく把握している全ての情報を露出していった。その結果、明らかにメディアからの空気が変わっていき、コントロールを取り戻したと感じたそうだ。自社にとって不利な情報でも透明性を高めることで信頼は回復、以前よりも高めることすら可能だと学べたことが収穫だったと語った。

    もうひとつの大きな出来事は2005年のハリケーンカトリーナ発生時のことだ。
    大きな被害を受けたニューオーリンズにもカジノを持つCE。住民の多くが市外へと避難し、当然観光客もいない。Janさんは「巻き上げるお金がどこにもありません!」とブラックジョーク。この時にCEはホテルを赤十字の活動拠点として開放した。地元に残った人は、地元愛が強いということではなくて経済的な問題が主たる原因だ。そこで、CEは被災者にとって何だったのか

    Janさんはこう表現した。「私たちは医療センターとなりました。私たちは、被災者が安心して居住できる空間となりました。私たちは、被災者が安全と平穏を感じられる場所となったのです」

    そして、何のためらいもなく、こう付け加えた。
    「そのことを私たちは何度も何度も社会にアピールし続けたのです」
    何たる潔さ。被災者を救うのが私たちの義務だったなどと鼻白むことは言わない。逆に、それをいかに社会にアピールしたかを堂々と語るJanさんに本当のプロフェッショナリズムを感じた。そして、営業を再開するまでも従業員に給与を払い続けたことに対して「それによって彼らと彼らの家族が安心して暮らせました!」と付け加えることも忘れない。

    CEでは会社として誓約している文章がある。"Code of Commitment"。これもどう訳していいのか分からないのだが、要するに絶対に守ります!という宣誓だ。ここ数年私たちにすっかり定着した"マニフェスト"という言葉とは似て非なるもので会社として全力で本気で守るという意味合いだ。サブタイトルが "IT'S WHO WE ARE"ですからね。自分たちの命だ、と宣言してるみたいなものです。マニフェストとは違うと分かっていただけたでしょうか。

    それはいいとして、CEのこの命を読むとこの会社のことがより良く理解できる。
    大きく4つの項目に分けられた宣誓。そのトップに来るのが従業員に対する宣誓だ。そして顧客、事業について、環境への配慮で結ばれる。従業員への配慮を簡単に訳すとこうなる。「もう考えられる限り最高の待遇を」。そして、英語だけではなくてスペイン語でも用意されているのはやはり従業員を意識してのことで、その姿勢は尊敬する。英語版のCode of commitmentは以下からご覧になれますよ。
    http://www.caesars.com/images/PDFs/CaesarsCodeofCommitment.pdf

    (なんか投げやりな画像ですみませんでした。撮影した写真がぶれぶれで・・。Janさんの勇姿見せたかったのですが。)


    Hitoshi Eiga / 栄花 均

    Hitoshi Eiga栄花 均

    ソーシャルメディア・ストラテジスト、なんて名乗ったりしているが海外単身赴任生活の孤独を埋めてくれたFacebookへの思い入れがひと際強い。
    ソーシャルメディアを考えるのは人生を考えること。人生を考えるのは、自分の周りの人を考えること。その人たちと何をするのかが人生。

    海外の最新情報や、事例の紹介、費用対効果、マーケティング情報は他に任せる。ソーシャルメディアを思考するブログ。それがこのブログです。

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